Colin Stetson 『All This I Do For Glory』 Greg Fox 『The Gradual Progression』

ここ最近また休みの日ずっと映画館にいるんですけど、わりと面白い映画多すぎて嬉しい。
まず『新感染』、ゾンビ映画の勘所をキッチリ抑えつつ圧巻の見せ場を連打しつつドラマもおざなりにしない、ロケーションというかシチュエーションを徹底的に絞り込み凝縮するようなやり方でそれを達成しているというゾンビ映画のニュースタンダードの一本になりそうな傑作。
『ザ・ウォール』、カフカ的な状況から展開する戦場の悪夢的寓話で、ロドリゴ・コルテスのリミットのような、あるいはゲームのザ・ラインみたいな、ちょっと超現実的ですらあるような実話ベースソリッドシチュエーション戦争映画で異形ながら強烈な印象を残す作品だったなと。
『ダンケルク』、全編に渡って苛む地獄のような音響で、観終わったあとの感想が「生きて此岸に辿り着いた」というかつてない戦争映画だったな、『エイリアン・コヴェナント』、大体『君の名は。』だったな(「これってもしかして」「身体の内側から宇宙生物に」「「入れ替わってる!?」」)…とかですね。
ただ自分が一番ズンと来たのは『三度目の殺人』ですかね。
役所さんの顔のない怪物とでも言いたくなるような壮絶極まりない演技。なんと7度も繰り返される面会シーンでその度にまるで違う顔を見せていく。そこに引っ張られるように共演者もそれぞれ最高の仕事をしていて、特に福山雅治は今まで見た中でいちばん良かったな。光と影のによって喩えてみせるような撮影・画面づくりもいちいち正解!という感じであり、答えのない問いを投げかけてくる系の作品として相当残ってくるもののある作品だった。


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それでちょっと前にEx Eyeというバンドのアルバムについて書いたけど、その中心のふたりのソロアルバムがそれぞれ出ていたので買ってみた。
どちらも今年の焼きたてホヤホヤの作品。


DSC_0926.jpg

Colin Stetson 『All This I Do For Glory』

映像を見てもらえば分かる通りで、この人のやることは基本的にサックスソロだ。
あらゆる種類のサックスを用いて…特に巨大なバスサックスでの演奏が知られているが…循環呼吸を利用したきめの細かい反復演奏を行うという、一種のミニマル。
今回もオーバーダブもループも用いずライブ録音されているとはっきり表記されている。
その演奏はどこかテクノ的でもある。サックスの操作音でもってビートを作り出し、息の加減でノイズを滲ませたトーンはときに電子音のよう聴こえてくる。
ニュアンスの微妙な上昇下降、ふとしたブレイクに挟まれる叫びめいた音、ホーミーのように重なる持続音。
すべての要素が高いスキルで制御されていることがよく分かる。
"In The Clinches"でツェッペリン風の強靭なビートを聴かせたかと思えば"Spindrift"では弦楽隊のように聴こえたりと、曲によって全く別様の姿を見せもする。
ミニマルってストイックにひとつのことを極めた先にオープンな表現の世界が広がっているようなジャンルだったりして、それをこう正面から突き付けられれば、その強固な説得力の前に、参りました!となってしまう。


Greg Fox 『The Gradual Progression』

レーベルRVNGってのがなかなか面白いな。
この人もまたジャズ経由ミニマルタイプの表現者だけど、今回のアルバムではかなり様々な楽器の入ったアンサンブルライクな音を聴かせる。
その機材の中心になっているのは、今年の来日でも使用していたセンサリー・パーカッション。ドラムに装着して、叩く箇所やニュアンスによって割り当てられた音・エフェクトをトリガーするというものらしい。
アンビエントから様々な楽器の音、果ては合成音声まで、あらゆる音が鳴っており、そのベースとしてグレッグのドラミングがある。
基本的には執拗な反復のリズムがあるけれど、この人の場合はその展開力が半端じゃない。アクセントをずらし巧みに音に波を作り出し、ある大きなリズムを病的なまでに細かく割った上で音符の抜き差しをリアルタイムで仕掛けていく。
正直、一度二度聴いたのでは何が起きているのかまるで分からないドラミングだ。
僕はライヴで見たのでその様子を想像できるけど、にしてもあれは驚異としか言いようのないものだったな。
様々な構成要素がドラムの周囲に弾けまくるこの作品は刺激的でもちろん楽しいが、純然たるドラムの音のみのソロも聴いてみたい。
というか、この人の叩く音ならいくらでもいつまででも聴いていたい。
そう思わせる。
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talibam! + Matt Nelson + Ron Stabinsky 『Hard Vibe』 Talibam! and Alan Wilkinson 『It Is Dangerous to Lean Out (E Pericoloso Sporgesrsi)』

このブログでも大昔に書いているんだけど、僕がフリージャズとかノイズとか聴き始めたときに好きで聴いてたバンドでTalibam!というニューヨークのデュオがいる。
ローファイなキーボードでミニマル&サイケデリックなフレーズを連発するMatt Mottel マット・モッテルとフリーフォームでパンキッシュなドラミングのKevin Shea ケヴィン・シーの二人で、10年以上活動を続けている。
7月にその片割れのマットが来日していて、六本木のスーパーデラックスでライヴをしていたのを見に行って。
Talibam!の初期の多分結構レアいCDRを持っていって話していたら


なぜか後日呼び出されて一緒にセッションするという面白すぎる事態になりました

わりと自分の人生の中でもトップクラスにクレイジーな出来事だったけど単純に楽しかったのでまあいいか


そんなTalibam!の最新音源二つ
DSC_0846.jpg
ってなんかいっぱい撮ってしまったけど青いカセットとその下のコラージュ調ジャケットのがそれです

『Hard Vibe』
bandcamp
ESP diskから出たLP(うちにあるのはライヴ会場で買ったCD版なんだけどfor promo use onlyと書いてある)。
サックス奏者Matt Nelson マット・ネルソンとオルガンのRon Stabinsky ロン・スタビンスキーとの四人編成での演奏。
サイドA/サイドBの二曲構成。各20分。
フュージョン風のリフを延々繰り返しながらサックスとオルガンが上で自由にソロを吹き(弾き)まくり、徐々に全体が変化していく。
マット・ネルソンのサックスの無限に湧き出すようなソロが凄まじい。途中からエフェクトも駆使して更なる別世界に突入。
両サイドとも同じリフを用いながら、即興で異なった展開に入っていくところが面白い。
こうしたミニマルベースの手法は今回見たライヴでもマット・モッテルの今取り組んでいるところなんだなぁと感じたので、それ踏まえて聴くと納得。

『It Is Dangerous to Lean Out (E Pericoloso Sporgesrsi)』
bandcamp
こちらは英国フリージャズ重鎮サックス奏者Alan Wilkinson アラン・ウィルキンソンとのトリオで2013年のライヴでの録音のカセット。Astral Spiritsというレーベルから。
この音源も同じく20分×2サイドの二曲構成と似たものだけど、内容は大分異なる。
ガッツリと聴かせるフリーフォームの即興演奏だ。
三者の演奏の卓越ぶりがよく分かる内容で、特にやはり即興をやらせるとケヴィン・シーというドラマーは他の誰にもできないドラムを叩く、モンスターだなあと。
普通なら即興であっても無意識に出てしまうようなビートや小節、タイム感覚を全く無視したドラムを叩ける稀有なドラマーだ。
演奏は全体に渡ってかなりゴリゴリの爆音仕様で、モッテルが用いているのであろうエフェクトを用いたノイズ展開もあり。
ウィルキンソンのサックスは例によって四六時中ビキビキのトーンで叫びまくっている。容赦なしだ。
これはもう自分のようなこの手のもの大好き人間には堪らない内容。


こうふたつ並べると全く違った内容だけど、シンプルな編成ゆえかどちらもしっかりとTalibam!の作品、という感じ。
僕の好きな音楽をやってくれるバンドだなと改めて思ったのだった。



 

Bill Orcutt 『Bill Orcutt』

今日は『パターソン』という映画を観た。
ジャームッシュの最新作。この人の映画を僕は結構好きなのだけど、なかなか不思議な人だと思っていて、アート的と言われるにしてはとてもポップだし、メジャーと言われるにしてはニッチな作風。ベテラン映画監督だけどパンクス。毎回まるで違うものを作ってくるのに、観終わってみればジャームッシュでしかあり得ないと思わせる。


物語の舞台は実在の町、ニュージャージーのパターソンで、この町でバス運転手をやっている主人公の男は名前をパターソンという。
なんとも妙な設定だけどそんなところは他にもあって、例えば映画冒頭の朝のシーンでパターソンの奥さんが「わたしたちに双子の子供がいる夢を見た」なんて言うのだが、それからバスの乗客として、あるいは町中で、パターソンはとにかく双子をよく見かける。
で、面白いのは、この映画ではそのことには何の意味もないというところだ。なにかそういう奇妙な状況に陥ったのは何故なのか?というサスペンス/ミステリーにでもなりそうなものだけど、そんなことは全くない。
というか、言ってしまうと、この映画はまさに"なにも起こらない"映画だ。その「なにも起こらない」ということの内実の豊かさを描いた映画、と言ってもいいかもしれない。

映画は綺麗に7分割されており、月曜から日曜までパターソンの一週間をほとんど均等に描いていく。
パターソンの日常は概ねパターン化されている。だいたい同じ時間に起きて、朝食を食べて職場に向かい、昼になれば町のシンボルの滝の見えるベンチで昼食を取りながらノートに詩などを書きつけて、妻と夕食を食べると犬の散歩に行き、バーに立ち寄ってビールを一杯だけ飲み、眠りに就く。
驚くのは、映画はこのプロセスを、等しく順繰りに毎日捉えていくということだ。
ところが、それによって…同じく捉えることによって、同じことの、まったく異なる側面が浮かび上がってくる。

バスを運転していると前の方に座る乗客の会話が聴こえるが、そこに座る人間も、会話も、毎日違うものだ。バーでは夜をつなぎ合わせるように、バラバラのようでいて実は前の夜の続きというような人々のやり取りに遭遇する。家に帰れば、とにかくいつも新しいことをしていたい妻が、ある時は部屋の壁をペンキで塗っており、ある時は奇抜な具材のパイを焼いており、ある時はギターを弾いている。
そんなことがそこかしこに存在している。
毎日同じように生きて、毎日違うものに遭遇する。
パターソンはそれを詩にして書き留めておく。
もちろんそれぞれの差異は、「映画」「物語」として捉えたら「何も起きてない」の範疇なのだけど、その「何も起きてない」ということにはほとんど無限の有り様があって、子細に観察してみれば、うたになるほど豊かだ。


ディティール。
ディティールということについて考える。
自分の好きなホラー映画とか、日常系(思えばこの言葉ほどこの映画に似合うものもない)な萌えアニメとかさ、あらすじレベルに…人にこういう話って説明するようなレベルに…単純化すると、全部同じ話じゃんってのが多々あるわけ。
ただジャンルにおけるこの手のものを味わう方法ってそれではないわけよ。
それは日常系ってことで言うなら、一見同じ、他愛もない、どこかで聴いた話の細部が…道端に咲いた花の品種とか、いつものメンバーでの意味のない会話の話題とか、日々に紛れこむちょっとした失敗とか、家に帰る道、いつもと一本外れた通りに入ってみるようなこと、そういう細部こそが、むしろ本質なわけ。
おそらくそのレベルで同じものを描いている作品というのは余りないし、この手の作品の作り手はそここそが肝要だと分かってもいるだろうし、その微妙な差異を楽しむという視座において、外野席からは同じにしか見えない物ものが、固有の豊かなそれぞれとして立ち上がってくる。
というか、あらゆるものはそうなのではないだろうか?
自分の好きなノイズミュージックとかドローンとかさ、多分興味ない人からしたらみんな同じに聴こえるんだろうなってのは分かるし。
逆に自分からしたら車って世界に50種類位しかあるように見えないし、せいぜい色が違うだけだろみたいな、あるいは野球やサッカーの選手も全員同じことしてるようにしか見えないわけよ。
好き、愛情を持っているということは、その間の微妙な差異を豊かなものとして楽しめるっていう意味なわけ。
それをパターソンになぞらえて言うのであれば、他人からしたら何もない、毎日変わらない他愛のない日々を、そういう区切りの繰り返す連続体としての人生、世界なるものを、愛情をもって生きてみれば、そこには同じことの毎日の微妙な差異、つまり愛すべき=そこにその瞬間にしかない・かけがえのないものとしての・性質が立ち上がってくるのかもしれない、ということ。


音楽はこれを強く思わせるものがある。
我々はなぜ同じ曲を幾度も…それどころか自分の手で…演奏したがるのだろう。
すでに熟達した演奏者の、優れた演奏が残っているんだから、もうその曲の演奏が世界に新しく生まれる必要はないんじゃないのか。
この問いが的外れで馬鹿げていることはもう直ちに分かるはずだ。ここまで書いてきた通りで、更に突き詰めていうなら、音楽が「良い」「悪い」ということと、演奏が「うまい」だとか「へた」だとかいう事は何も関連性がないということになる。
僕はよく、音楽はそこに含まれているノイズのほうが本質、みたいな言い方をしてしまうのだけれど、それはこのことだ。
楽譜の通りに置かれている音なんてのはどうでも良くて、その合間をつなぐ音の震えやかすれ、譜面に現せないジリジリという空気の音、アンプに挟まったノイズ、外れた音、ずれた音。意図せずに…しばしば間違いと言われる…そこに現れている音こそがその音楽の固有性、かけがえのなさを担保する。それは再現不可能だ。
Bill Orcutt ビル・オーカットの2017年作セルフタイトル、『Bill Orcutt』は、このギタリストがカバー集をやっている、というゆえに、音楽のそんな性質が究極的に表現されている。
ここで聴かれる演奏たちは、確かにそれぞれの曲であることには間違いないのだが、それと同時に"この演奏でしかありえない"、固有の、"ここで録音されたこのテイク以外には存在しないし、二度とやってこない"、唯一のものとして響いている。
それはオーカットが…いや、ここでもう一度こう言っておこうか…オーカットだけが辿り着いた地点だ。
だからこのアルバムのタイトルは『Bill Orcutt』なのだろう。
"When You Wish Upon A Star"、"Over The Rainbow"、"Star Spangled Banner"…。
そこら中にある曲たちのここにしかない演奏たち。
本物の傑作。


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Bill Orcutt









Ex Eye 『Ex Eye』

『君が生きた証』という映画を観たのですが、これ是非観てほしいと思います。
息子を亡くした父親が遺品整理の折に息子の作った曲のデモCDを見つけて、それをバーなどで歌い始めるという内容。
なのだけど、中盤さり気なく、何でもない事のように、とんでもない情報を開示してくる。
それによって今まで見せてきたものの意味が全部変わり、重い問いが投げかけられる。
これはネタバレしてしまうともう全く意味のなくなってしまう話でもあるんで、何も情報を入れずに観てほしい。
タイトルから想像させるような真っ直ぐな感動話では全くないけど、必ず観て良かったと思うはず。
人前で演奏しようとすると吐いてしまうナイーヴなギタリストとしてアントン・イェルチェンが出ていたりして、今にして、ということで、その意味でもタイトルが刺さってくる。
おすすめ。


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exeye.jpg
このレコメンドイフユーライクのところのメンツが分かり易っ!というか、この一団聴いてる人、いるいる!って感じがしてかなりいいと思います

わりと出たばかりで、Ex Eyeというバンドのファースト。セルフタイトル。
ジャンルはエクスペリメンタル・メタルとかわりと何でもあり感のある言葉で言われているけどまぁ一筋縄でいかない内容。
それもそのはずで、このバンド、メンツが…

Colin Stetson - alto & bass saxophones
Greg Fox - drums
Shahzad Ismaily - synths
Toby Summerfield - guitar

そ、このバンド、今やスタジオ仕事などでも引っ張りだこの感のあるコリン・ステットソン、Zsのほか少し前に来日したソロでも衝撃の演奏を見せるグレッグ・フォックス、ふたりが中心になったニューバンドなのですね。
脇を固める(いやフロント楽器に対してこの表現もおかしいが)二人もプロデュースやスタジオワークのベテラン。
コリンとグレッグが同じバンドで演奏するというのは事件には違いないのだが、一方で音楽性というところから見ればよく分かる。
二人ともジャズをルーツのひとつに持ちつつあらゆるジャンルを手掛け、自身の表現としては肉体を使って全く新しいミニマルミュージックを生み出している。

アルバムは4分のイントロに続いて12分のトラック×2、8分のトラック、と、ロックと思うとかなり潔い内容。
しかし聴いてみればやはりこの人達の生み出す音楽、普通のものでは全然ない。
4つの楽器がそれぞれ複雑なフレーズでもって絡みあいながらひとつのモチーフを形作り反復と変形を繰り返していく、というのが基本かな。
ただ案の定というかとんでもない超絶技巧だ。精密機械のような各楽器の噛み合い。
サックスの生むトライバルな響きやシンセによるエレクトロな感触というのもあって、一息には説明できない音。
メタルというかロック的な明快な展開をする箇所もあればアンビエント的に各楽器のレイヤーを幾重にも折り重ねて音を作る部分もある。
たぶんこれは最初にこういう音を作ろうという設計図ありきの音ではないんだろうな。
ガッチリ作り込んだもので、この4人で技術的に/音楽性的にここまでできますけどっていう風なところを感じる。
グレッグのいるZsがそうであるようにこれもまたミニマルという方法論を取り入れた音楽の新しい展開なのではないかな。
意外と難解さはなくスルッと入って来るが強力な質量でズンとくる、そしてフィジカルな気持ち良さが一番に来る。
人間技と思えないドラミングと重厚なノイズヴェールの織り成す"Anaitis Hymnal; The Arkose Disc"が特に良い。


続きに映像を貼っておきます

Ensemble Phoenix Basel plays ILIOS 『El anillo que sujeta el mundo de la forma al mundo de la idea』 D'incise 『Ukigusa』 牛尾憲輔 『Inner Silence』

※7/13 『Inner Silence』について書きたいこと全然書けてない気がしたので追記しました…


昨年の映画のソフト化が出そろって来たので先日何本か買ったのですけど、やはり『怒り』、すばらしい映画だなあと。
メイキングやインタビュー、キャストコメンタリ等色々入っていたのを一通り見てみて、確かにこの映画は役者たちの演技が素晴らしい映画ではあるんだけど、その言い方では一段足りない、必要な箇所にピンポイントで限りなく本物に近い感情を置いていくか?そのための作りっていうのを綿密にやっているんだなあと。


HwOb8xsL.jpg


今回は上の二作は例によってart into lifeで買えますけど。

Ensemble Phoenix Basel plays ILIOS 『El anillo que sujeta el mundo de la forma al mundo de la idea』
タイトル、長すぎる!
メイリノとの共作盤でちょっと紹介したのかな?ILIOS イリオスはちょっと正直プロフィールとかがあまりよく分からないのだけど、やっているユニットのMohammad ムハンマドでも個人名義でも音の方向性は基本的に変わらず。かなり硬質で無機的なドローン。
で、そのやっているユニットのほうのムハンマド、独特なのは編成。
3人のときと2人のときがあって、どちらもチェロやバイオリンのようなクラシカルな弦楽器とエレクトロニクスの組み合わせになっている。
そこで今回の作品。そのイリオスの作った楽曲を現音アンサンブルと一緒に演奏するというもの。
総勢11人の編成はバイオリンやコントラバス、クラリネット、フルートにエレクトリックギター、キーボードなど、そこにオシレーター/フィールドレコーディングでイリオスが加わっている形。
これ聴いていて思ったのが、拡張版のムハンマドだなということで。
一曲42分でもう全編ストイックなチェンバードローン。全体がひとつの持続音となって、楽器の輪郭は見えない。ほぼ電子音に聴こえるくらい。
ドローン系ではわりとありがちなことながら、これを作曲ってどういうことなの…ってなるのだけど、音のレイヤー的な変化は結構豊かで、最終的には相当分厚く大きなうねりを持った音に変化していく。
こう生ドローンのおいしい部分、空間の響きも込みで鳴っているものの感触そのものを楽しむという音源かなと。


Ensemble Phoenix Basel、何気にギターがマウリツィオ・グランディネッティなんですね


D'incise 『Ukigusa』
お馴染みD'incise(読み方分からない)の最新作はなぜか純和風のアートワークに大量のオマケ付き、内容はプリペアド・ビブラフォンを使った自作曲の演奏という、今までの感じとだいぶ異なるもの。
とはいえ聴いての感触は彼らしいミニマル。もともとスネアとかの物理的な音響を用いている事、加えてよく組んでやっているドラム/パーカッションのCyril Bondi シリル・ボンディも参加しているとあって、パッと見の感じに反してあっ、これはD'inciseだな、という音になっている。
スコアが付属しているのだけど、これが演奏の様子が想像できるほど具体的な内容で、プリペアリングには何を用いるか(アルミニウムや発泡スチロールなどの記述がある)、BPM、マレットや弓など演奏に用いるもの、音程までCDEと普通に書いてある。
もっと抽象的なグラフィックスコアみたいなもので半即興的に演奏するのかと思っていたので、ここまで音楽的にカッチリ作っているということに失礼ながら少し驚いた。
聴こえてくる音はプリペアドがうまく作用している感じ。様々なタッチの点描めいた物音のほか、電子的なフィードバックのような持続音(弓を用いていると思われる)、キリキリという金属音など、意外にも豊かな音がしかしシンプルに静寂の中で時を刻んでいる。
アコースティックな響きの丸みもあって…自然音、環境音のような非人格的なとこもあり…なんかアレですね。ししおどし的な感じというか。なるほどこのアートワークは結構音と結びついているのかなという。
そんな用途で流しておくのもよい気がする。


この映像がとてもD'inciseらしいなと思っている


牛尾憲輔 『Inner Silence』
これがちょっと特殊な音源。
一番最初に書いた通り昨年の映画のソフトをいくつか買っていて、その中にアニメ映画の中では最高だったなって思っている聲の形のBDもあって。
これのサントラについてはここでも何度か書いている通りで、斬新なノイズ/実験音響が作品のテーマ、手触りと深く呼応しあう、昨年のベストサントラだろうと思っている。
で、今回、BD化にあたってサントラ未収録の新規音源が収められていると。まあ聴いてみたんだけど…。
ちょっとしたオマケ、ボーナストラック的なものだろうと想像していたら、これがとんでもない。
サントラCDに収録されなかったアウトテイクではなくて、そもそもCDに収録するのが不可能な音楽作品なのだよね。
どういうことかというとこれ、サントラのパイロット版的に作成された音源をベースにしたもので、当初は映画の上映中ずっと一曲を流し続けるという構想があったらしい。で、この映画、二時間ある。つまり…二時間一曲のアンビエントドローン作品がこれ。
これが他のジャンルであれば、何枚組にでもすればいいのだけれど、ドローンというジャンルは、途切れず持続していることが所与の条件であるために、フォーマットの収録限界に敏感だ。平たく言って、80分以上のドローンの楽曲はCDフォーマットでは通常作れないということになる。
今作がそのフォーマットのおかげで二時間ものドローン楽曲を可能としていること、これだけでまず価値ある音源と言えるように思う。

トーマス・ブリンクマンの『1000 keys』はピアノの音を解体再構築して作り上げられた覚醒的なアコースティックテクノだったけど、この『Inner Silence』も似たかたちで作られている。例のピアノの機構が働くノイズを精密に捉えた演奏とアンビエント的なヴェールのような持続音が組み合わさっているのだが、その持続音の部分もピアノの音を加工して作っているとのこと。
音全体の感触はウォームでくぐもったような…多少水温の高い水中に潜っているような、独特なもの。あるいは、両耳を手で塞いだときに聴こえる音に似ていると言えるかもしれない。ここから得られるイメージはいろいろあって、例えばあの両耳を手で塞いだときの音というのは鼓動とか血流の音であって、あれは胎児が胎内で聴いている音にも似ているそうだ。この映画はある意味では生まれ直しの物語、ある瞬間に社会との繋がりがドラスティックに結び直されたことを知覚するという物語であるということ。
あるいは、オルガン、という言葉の語源は、人体の器官であるということ。ピアノをそのように捉えた音楽とも呼べるような。
もうひとつが、キャストインタビューで言っていたことのうちに気になったものがあって、劇中に花火を見るシーンがあるのだけど、そこで主人公たちがコップに飲み物を持っている。花火の振動で飲み物に波紋がたつ。それで、あ、音は分からないとしても振動は、身体で感じる振動は分かるんだ、とそのキャストの人が言っていて、たぶんこのドローンが志向するのもそういう音響であるとうこと。

この作品は映画の音声トラックとして作られているので、BDへの収録の形も本編の音声トラックとして聴くというものになっている。ここが重要なのだけど、劇伴ではなくて音声トラックだ。つまり、サイレント映画形式、しかも映像と基本的には同期しないアンビエントドローンが鳴っているのみ、という。
時折の瞬きのような音の変化に偶然的に映像が噛み合うような瞬間にはっとさせられつつも、基本的な体験としては…あれに似ているかな。ヴィルヌーヴの『メッセージ』。音が映画の中の時間間隔をも捻じ曲げるような。
『インターステラー』で同じ事をやっていたように記憶しているけど、5.1chで制作されているということも面白い。それを存分に味わうために、ステレオヘッドフォン/イヤフォンを用いてサラウンド音響を再現するという音声モードがBDに入っていて、包み込むような音響にどっぷり浸かれる。
映画的な意味でも相当に実験的でありつつ、単に音楽として聴いても素晴らしい完成度。
そしてこれで観ていて本当にいい、美しい映画だなと改めて。
というか、この音の中にあってこそ、アニメーションの美はプリミティヴに立ち上がる。すなわち、そう振る舞うこと-仕草がすべて-そう存在するということ、意味から離れて、動くこと-アニメイテッド-によって生きるということ、つまり、こう捉えることはできないか?この子供たちはドローンで踊っているのだと。そこに現れるのは生きること=踊ることという、アニメという表現そのものの孕むひとつの究極的なテーゼであるはずだ。
だから僕はこの映画のクライマックス、あの美しいノイズの溢れるクライマックスにどうしようもなく涙してしまうのだろうな。すべては音楽で、音楽はいつも鳴っている。生はもう祝福されている。
本編のあの音の感じが好きならこれは買って損しない、聴く価値のある音源。ぜひ。

 

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