Paul Buchanan 『Mid Air』

『FAKE』という映画を観まして、これは少し前に時の人になっていた佐村河内さんに密着して撮ったドキュメンタリーで。
ただ監督が森達也監督ということで普通のドキュメンタリーではないですね。
件の事件の後のオウム真理教のドキュメンタリー『A』『A2』で有名な人ですけど、面白い人なんすよねこの人が。
『オカルト』って本書いてて、これは元・超能力少年やら自称霊能力者やらUFO研究家とやらの人達に話を聞いて回ったルポ本で、僕非常に好きな本なんですけど。
まあそういう人がこの題材で撮った映画ってことで、いわゆるメディアスクラムとかそれに乗っかる我々のネット公開処刑的なものであったりとか、
こういう形で話題になってしまった人の生活というのは実際どうなるのか?みたいなことはもちろんあるけど…
色々なテーマを含んでいる中で、映画観て一番びっくりするのは、この映画、佐村河内さん以外にもう一人主役がいるんですね。
それはみんな多分知らなくて、え?誰?ってなると思うんだけど、その人の存在がこの映画をちょっと特別なものにしていて。
そういうものと、森監督が常に言っている「ドキュメンタリーという手法の被写体への加害性」ってことと、絡んで辿り着くクライマックスはちょっと出来すぎな位に美しい。
おすすめ。


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『アバウト・タイム』って映画があって、これが最高の音楽が最高のやり方で使われる最高の映画なんだけど、これの名曲揃いの珠玉のサントラの中で、最もシンプルで同時に一際耳に残る曲がある。


"永遠に生きたい / 宙に踊る君を眺めながら"
映画の中で物語のヒロインのテーマとして何度もリフレインされるこの曲。
歌に歩調を合わせるピアノと微かに纏わせるストリングス、シンプル極まりない歌詞、そして歌のみ。
でも不思議とそれで必要なものは全部あると感じさせる。
これはと思ってこの人のアルバムを衝動的に買ってみたのだが、これが大当たり。
というわけで今年の夏アルバムの紹介を。


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Mid Air

この2012年作。
このPaul Buchanan ポール・ブキャナンという人はThe Blue Nile ブルー・ナイルというバンドのヴォーカリストで、このバンドは非常に寡作で30年以上の活動で4作しかアルバムをリリースしていないらしい。
今回取り上げるソロアルバムは、56歳にして制作されたファーストアルバムとのこと。

All tracks written and performed by Paul Buchanan というシンプルなクレジットからも想像できる、極端なまでにシンプルな内容。
14曲36分。楽曲はほぼ2分台。終盤に挟まれる讃美歌めいたミニマルなオーケストラのインスト作品を除けば、どれも曲のつくりは同じだ。
ピアノと声だけがあり、そこに微かに味付け程度の要素が重ねてある。ストリングスやオルガン、ベースなど、曲ごと違うけれど、どれもひとさじ加えてあるだけだ。

この人の表現は声だ。
この声の響き、これはちょっと今まで聴いたことがないな。
低く、濁っていて、年齢から想像させるものより更にもう少しくたびれている。
喉の中で音が回っているような、まっすぐ空間に放り出されるをのためらうようにうねる響きがあって、高域は震えながらなんとか出てきている。
音楽そのものの静謐さはこのためかな。巧いとかそういうものとは違うけど、弱い、ということでもない。
なんかこう気恥ずかしい言い方だが、悲しくてやさしい声だ。
それだけで音楽を成立させる確かな強度がある。
その声だけでいいというか、他になくてしかも強い…充分。
そういう、必要なものはこれで全部だ、って感じさせるのがこの人の歌だ。

最近、ビル・オーカットのアコースティックギターソロとか、ひとつのことを突き詰めて突き詰めて至った表現みたいなものに感動することが多くて、これもそれなのかなと。
歌詞もほんとひとつの物事についてしか歌ってないし、意味なんか大してなかったりする。
ただその言葉は歌われるためにあるのだ。
アルバムのラストに置かれた"After Dark"という曲で"How I love you / When I love you / After dark?"と歌われていて、この曲には本当にそれ以上の意味は全然ないのだが、そのそれ以上ないってことは実は美しいことなんじゃないか。
このアルバムを聴いてて、本当にそう思うんだよな。
ベテランのヴォーカリストが満を持してリリースするソロアルバムなんていったら豪華絢爛なアレンジのものを想像しちゃうけど、実際には必要なものはこれだけっていう。
最近朝駅から職場までの道を歩くとき、日向をきらって、団地や公園のある細い路地の中を日陰を渡るようにして歩くのだが、そのときずっとこの音楽を聴いている。




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