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Francisco Meirino 『Surrender, Render, End』



/アパートの話1、あるいは、
■1 Surrender

数年前働いてた職場に行く途中の道に変な建物があったのだよな。
見た目は築2、30年のアパートって感じで、コンクリ作り、二階建て、4部屋かな。ボロボロで明らかに人は住んでいない。建物の前に庭のようなスペースがあるのだが、砂利が敷いてあるだけで、黄色いロープの柵で囲ってある。変なのはここからで、一階部分、建物正面に部屋ごとの大きな窓と(これも変な構造だが)その隣に各部屋の扉?らしきものがあるのだね。らしきもの、と書いているのは、見えるのは扉が填まってたと思しき窪みしかないから。窓と扉は、填まっていたはずの窪みにぴっちりと合板の目張りがされていて、建物の中は全く見えないという形。こういうの、大きな建物の取り壊し前とかは見るけど、個人とか小規模な住居ではあまり見ないなと。で、二回の部屋への入り口は無いんだなこれが。
裏に階段でもあるのかと思い回ってみると、隣の土地に別のそこそこ大きな家が建っていて、こちらは草が荒れ放題の庭らしきスペースに三台の廃車が放置されてるというまた妙な趣。擦りガラスの窓から見える家の中は段ボール箱やら一斗缶やらが積み上げられていて、見た目は一軒家でも実際は倉庫のように使われているようだ。

で、ある時、職場に近くから通っている同僚の人に聞いてみたんだな。毎日前を通って、あんまり気になるもんだから。
ちょっと行ったとこに変な建物あるじゃん?なんか板の目張りで入れなくなってる……と。
ああ、あそこ。入れますよ。昔、同じ大学の奴が入ったんすけど。
裏の家がぴったりくっついてるじゃないですか?あっちから入るんすよ。
でも、入んないほうがいいですよ。


/変な幽霊の話、あるいは、
A. Arguments(for Laziness)

通っていた学校が海岸沿いの丘陵の町にあって、そういう町の宿命として、この町もとにかく坂が多かった。
直に海に流れ込む川が通るせいか町全体にそこはかとなく潮のにおいがしていて、足元を見れば蟹が這っている。住宅地と森が拮抗する中を割くように坂道がいくつも走っていた。
そんで、そういう坂道のうちのひとつに、妙な噂のある坂道があった。町のなかでもとりわけ古い一角で、時代錯誤の感がある石垣のでかい家や、池まで備えた庭付きの寺社が点在していて、勾配を段作りにして無理矢理眺望をつくっているような。とはいえ、錆び付いた看板が張り付いた木の電柱なんかはなかなか雰囲気がある。
件の噂というのはこうだ。夜、日付の変わるころの時間にこの坂を歩いていると、坂に入って6、7分ほど登ったところの電柱の足元に人が立っている。街灯で確認できる姿は薄汚れたジーンズに白いポロシャツで、こちらに背を向けて電柱に向き合い、じっと立っている。黒い髪が首元まであって性別は分からない。妙なのが、この人は今海から上がってでも来たかのように全身濡れ鼠で、ポタポタと水を滴らせている。少し近づくとツンと潮のにおいがする。不審な様子のこの人に声を掛けてみても、こちらを振り向きもしない。
さらに近づいてみて、やっと気づく。この人は最初からこちらを向いていた。頭だけが体と逆、後ろ向きについていたのだ……。
というものなんだけど、変な話なのはここからだ。普通に考えて、夜中にびしょ濡れでボーッと突っ立ってる人に声掛けないだろう…という疑問が湧くのだけど、これ、実際に遭遇すると、なぜか普通の人と勘違いして声を掛けてしまうらしいのだ。途中で姿が変わったりという話もなく、なぜか勘違いして声を掛けてしまう、と言われていた。呼びかけるどころか肩を叩いてしまうというヴァージョンまであった。謎だったなこれは。


/アパートの話2、あるいは、
■2 Render

件のアパートに侵入しようと言いだしたのは二回生のO林という男だった。大学の夏休みで暇を持て余したところにそんな奇妙な場所の話を聞き、更にはそこには裏側に建つ別の家から入るのだという奇妙な話までついてきたので、すぐに人通りのない夜を狙って入ってみようという話になった。
O林を含む四人の男子学生は深夜1時頃アパート前に集まり、はじめにアパートの窓や扉の窪みを確認してみたが、やはりそちらからは入れそうもない。裏手の家に回ると、背の高い雑草に埋もれた庭の向こうに装飾のついた扉が見える。家の色はベージュで、二階建て。外見は荒れてはいないが手入れされている様子もなく、人が住んでいるようには見えない。とはいえ持ち主のあるものかもしれない、慎重にゆっくりとドアノブを捻ると…開いている。こちらから入れるなんて話が流れているくらいだから誰かが入ったということになるのだけど、にしても意外なほどすんなりと入れてしまう。
家の中は埃くさく、暗い。天井に目をやると、玄関から先に続く廊下まで照明はすべて取り外されている。擦りガラスの填まった入り口扉から街灯の灯りがわずかに入るが、玄関の周辺しか見渡せない。スマホのライトを付けて家にあがる。玄関からまっすぐ続く廊下はリビングらしき両開きのドアに続いていて、向かって右に二階への階段、左には襖扉がある。普通に考えると、階段下の扉はバスルームか物置きか。外から見えた様子でゴミ屋敷かと思ったが、段ボールがいくつか転がっているだけで、意外と片付いている。
手近の襖扉を開くと畳の寝室になっていた。壁際に段ボールやコンテナが積み上げられている。外からああ見えるのは、このせいか。畳に足を一歩踏み出す、と、ぶじゅっ…という音と微かに沈む感触がした。異様に湿っている。気付けば、なにか生臭いにおいが漂っている。気色悪く思ったのでこの部屋に入るのは断念して、廊下奥のリビングを調べることにした。
玄関に戻ってくると、メンバーの中のY﨑が、気分が悪い、ここで待ってる、と言いだした。ノリが悪いなと思ったが、Y﨑は廊下脇の階段に座り込むと、両膝を抱えてその上に顔を伏せてしまった。


/人フォルダの話、あるいは、
B. In Need Of Anything,No,Perhaps Nothing

ネット上に散らばる画像を収集するっていうのは結構一般的な趣味で、そういう人は大抵画像をフォルダに仕分けして整理している。猫フォルダ、風景フォルダ、みたいな具合。まあ僕はホラー映画ポスターフォルダとかクソジャケフォルダとかそんなんですけども。
(人のことは言えないが)悪趣味な友達がいて、そいつが自分の画像フォルダを見せてくれた。フォルダには「人」とタイトルがついている。納められているのは人物写真。日本人だけでなく…というかほとんどが外人で…人種も性別も年齢も様々で、心なしかいわゆる自撮りのように見える写真が多いように思う。
これは何?と聞きながら適当に一枚の写真を指差してみる。白人の少年、16、17か?こちらは半分見切れているけど、別の少年と肩を組んで楽しげだ。
「これは誕生日の写真ですよ」
それは何となくわかる。例の三角形のパーティー帽子を付けているところから見るに。
「この子、この写真フェイスブックにあげたあと、すぐ二階の自分の部屋戻って拳銃で頭撃ってんですよ」
え。じゃこれは。
「確かこっちの人は自撮りしながら道歩いてて、この5分後にスマホ運転の車に轢かれて死んだみたいですね。
それからこっちは度胸試しでこんなとこ登ったみたいだけど、この後すぐ結局足踏み外して落ちたって。」
これ、マジなの?
「マジというか……べつに想像つくと思いますけど、結構、みんなずっと撮影してるし、ずっとどこかしらにあげてますよ。
自殺中継とかすら珍しいことでもないし、これから自分が死ぬ事知らずにいる人なんか、尚更ですよ」
ちょっと唖然としながら見ていると、フォルダの一番下に「他人」と名付けられたサブフォルダが置いてある。
「ああ、多分こういうの好きなんじゃないかな。こっちは…」
と言って、「他人」フォルダの一枚目を開くと、それはアジア系の混じった欧米の若い女性のバストアップの写真だった。
場所はワゴンのような大きめの車の中か。それまでの写真と決定的に違うところがある。
女性は灰色の太いテープで目と口を塞がれている。テープが貼られて長く経っているのか、その縁が鬱血したようになっている。
「こういうのってすぐ消されるんですよね。これも本人のインスタグラムに上がって、すぐ。
で、この人、行方不明で、まだ見つかってないんですよ。もちろん、撮影したやつも。」


/アパートの話3、あるいは、
■3 End

仕方なくY﨑を玄関に置いてリビングに入ると、ソファと背の低いテーブル、アップライトピアノが設置してあり、奥はダイニングキッチンになった広い空間になっている。妙なことに、冷蔵庫の動いている音が聴こえる。ここでも壁際にはものが積み上がっている。
散らかってはいないが、濃いほこりのにおいがする。蒸し暑い。
肝心の件のアパート側の壁を見ると…、濁ったガラスの填まった両開きの引き戸があり、その向こうにアパートの外壁が見える。奇妙なのはそこだ。
アパートの外壁には、濃い茶色に塗られた重そうな…ちょうど学校の体育館の扉を連想させるような…こちらも両開きの引き戸があり、この家側から開け閉めできるようなノブ式のシリンダー錠が付いている。
その異様さに気圧されつつ、近づいてみると、家とアパートの隙間の地面にびっしりと蛾、得体の知れない虫の死体、鳥の小骨のようなものが落ちているのに気づく。尋常でなく嫌な空気を感じて、もうアパートには入らなくていい、戻ろうということになり、玄関に向かう。
おい……、
と、玄関脇の階段に座り込んでいたはずのY﨑の姿がない。
気分が悪くなったと言っていたから、先に外に出たのだろうと思って、玄関から出て外を見てみる。いない。
建物の周りを半周しアパート側の前に回ったとき…カコ、カコ、と、アパート前面のドアらしき窪み、そこに填まった板が動いた気がする。疑問に思い近づくと、

あ゛け゛ろ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛!あ゛け゛ろ゛よ゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛!!

バン、バン、とあちら側から叩いている音がする。Y崎だ。どうやったか知らないが、アパートの側に入ってしまったのか。しかも様子が尋常じゃない。こちらからも板を押したり蹴ったりしてみるが、動く様子がない。やっぱり裏の家から入るしかない。
全員で改めて裏の家の側に回り、玄関のドアを開けた。
…え?
しんと静かな空気と目の前の光景に一瞬理解が追い付かない。
玄関脇の階段に、膝を抱えたY崎が座り込んでいる。混乱しつつも、
おい、
と、声をかけてみるも、反応がない。家の奥からじっとりと嫌な感じがして、ひとまず外に出ようとY崎を両脇から抱え上げると、ズボンの裾がびっしょりと濡れて、全身が小刻みに震えていた。

それから声を掛けても反応がなくうつむいたままのY崎を何とか車に乗せ、家まで送り届けた。そのあとのことは覚えていないらしい。

…と、まあ、そんなことがあったんで。あれには近づかないってことになってて。取り壊しとかもできないって話ですね。
へぇーっ、マジなの?聞いた話っしょ?と探りを入れてみると、こんな話もしてくれた。
その夏休みの明けに、大学の学内掲示板にちょっとした注意が張り出された。
いわく、先日、本学の学生による不法侵入事件がありました。該当の学生は、警察より厳しい注意を受けています。ついては、皆さんも、本学の学生としての自覚を持ち、云々……。
変に思ったのは、その掲示の下にA4の紙にプリントした写真が貼ってあったことだそうだ。
あのアパートだった。窓には目張りの板がない…と思いきやその中はべたっとした闇で、昼間の写真なのに中はまったく見えない。と、学生課の職員がやって来て、その写真を剥がして丸めると、どこかに歩き去ってしまった。
O林はその話を一度教えてくれたきり、二度とすることはなかったが、一緒に駅前を歩いているときに一度へんな事があった。
急に立ち止まって「え?」と言ったのでO林のほうを見ると、Y﨑?と呟いている。視線を追うと、呆けた顔の男が車椅子に座っていて、家族なのか、厚着をした女性に後ろから押されている。
…と、そんな話を聞いた。
最後に訪れた2年と少し前、件のアパートはまだ同じ場所にあった。



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続きにライヴ映像等

最近わりとワケ分かんないことやってるのが多くていいな~








メイリノの過去のコラボ作に、EVP音声の採取収集家Michael Espositとの共作があるんだけど、今回のアルバム聴いた時の印象がわりとそれだったんだよね。
で、アートワーク開いて中面見ると上の写真があったわけなんで、そういうストーリーテリングしてくることを意外と思いつつ、なるほどなと。
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