Ensemble Phoenix Basel plays ILIOS 『El anillo que sujeta el mundo de la forma al mundo de la idea』 D'incise 『Ukigusa』 牛尾憲輔 『Inner Silence』

※7/13 『Inner Silence』について書きたいこと全然書けてない気がしたので追記しました…


昨年の映画のソフト化が出そろって来たので先日何本か買ったのですけど、やはり『怒り』、すばらしい映画だなあと。
メイキングやインタビュー、キャストコメンタリ等色々入っていたのを一通り見てみて、確かにこの映画は役者たちの演技が素晴らしい映画ではあるんだけど、その言い方では一段足りない、必要な箇所にピンポイントで限りなく本物に近い感情を置いていくか?そのための作りっていうのを綿密にやっているんだなあと。


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今回は上の二作は例によってart into lifeで買えますけど。

Ensemble Phoenix Basel plays ILIOS 『El anillo que sujeta el mundo de la forma al mundo de la idea』
タイトル、長すぎる!
メイリノとの共作盤でちょっと紹介したのかな?ILIOS イリオスはちょっと正直プロフィールとかがあまりよく分からないのだけど、やっているユニットのMohammad ムハンマドでも個人名義でも音の方向性は基本的に変わらず。かなり硬質で無機的なドローン。
で、そのやっているユニットのほうのムハンマド、独特なのは編成。
3人のときと2人のときがあって、どちらもチェロやバイオリンのようなクラシカルな弦楽器とエレクトロニクスの組み合わせになっている。
そこで今回の作品。そのイリオスの作った楽曲を現音アンサンブルと一緒に演奏するというもの。
総勢11人の編成はバイオリンやコントラバス、クラリネット、フルートにエレクトリックギター、キーボードなど、そこにオシレーター/フィールドレコーディングでイリオスが加わっている形。
これ聴いていて思ったのが、拡張版のムハンマドだなということで。
一曲42分でもう全編ストイックなチェンバードローン。全体がひとつの持続音となって、楽器の輪郭は見えない。ほぼ電子音に聴こえるくらい。
ドローン系ではわりとありがちなことながら、これを作曲ってどういうことなの…ってなるのだけど、音のレイヤー的な変化は結構豊かで、最終的には相当分厚く大きなうねりを持った音に変化していく。
こう生ドローンのおいしい部分、空間の響きも込みで鳴っているものの感触そのものを楽しむという音源かなと。


Ensemble Phoenix Basel、何気にギターがマウリツィオ・グランディネッティなんですね


D'incise 『Ukigusa』
お馴染みD'incise(読み方分からない)の最新作はなぜか純和風のアートワークに大量のオマケ付き、内容はプリペアド・ビブラフォンを使った自作曲の演奏という、今までの感じとだいぶ異なるもの。
とはいえ聴いての感触は彼らしいミニマル。もともとスネアとかの物理的な音響を用いている事、加えてよく組んでやっているドラム/パーカッションのCyril Bondi シリル・ボンディも参加しているとあって、パッと見の感じに反してあっ、これはD'inciseだな、という音になっている。
スコアが付属しているのだけど、これが演奏の様子が想像できるほど具体的な内容で、プリペアリングには何を用いるか(アルミニウムや発泡スチロールなどの記述がある)、BPM、マレットや弓など演奏に用いるもの、音程までCDEと普通に書いてある。
もっと抽象的なグラフィックスコアみたいなもので半即興的に演奏するのかと思っていたので、ここまで音楽的にカッチリ作っているということに失礼ながら少し驚いた。
聴こえてくる音はプリペアドがうまく作用している感じ。様々なタッチの点描めいた物音のほか、電子的なフィードバックのような持続音(弓を用いていると思われる)、キリキリという金属音など、意外にも豊かな音がしかしシンプルに静寂の中で時を刻んでいる。
アコースティックな響きの丸みもあって…自然音、環境音のような非人格的なとこもあり…なんかアレですね。ししおどし的な感じというか。なるほどこのアートワークは結構音と結びついているのかなという。
そんな用途で流しておくのもよい気がする。


この映像がとてもD'inciseらしいなと思っている


牛尾憲輔 『Inner Silence』
これがちょっと特殊な音源。
一番最初に書いた通り昨年の映画のソフトをいくつか買っていて、その中にアニメ映画の中では最高だったなって思っている聲の形のBDもあって。
これのサントラについてはここでも何度か書いている通りで、斬新なノイズ/実験音響が作品のテーマ、手触りと深く呼応しあう、昨年のベストサントラだろうと思っている。
で、今回、BD化にあたってサントラ未収録の新規音源が収められていると。まあ聴いてみたんだけど…。
ちょっとしたオマケ、ボーナストラック的なものだろうと想像していたら、これがとんでもない。
サントラCDに収録されなかったアウトテイクではなくて、そもそもCDに収録するのが不可能な音楽作品なのだよね。
どういうことかというとこれ、サントラのパイロット版的に作成された音源をベースにしたもので、当初は映画の上映中ずっと一曲を流し続けるという構想があったらしい。で、この映画、二時間ある。つまり…二時間一曲のアンビエントドローン作品がこれ。
これが他のジャンルであれば、何枚組にでもすればいいのだけれど、ドローンというジャンルは、途切れず持続していることが所与の条件であるために、フォーマットの収録限界に敏感だ。平たく言って、80分以上のドローンの楽曲はCDフォーマットでは通常作れないということになる。
今作がそのフォーマットのおかげで二時間ものドローン楽曲を可能としていること、これだけでまず価値ある音源と言えるように思う。

トーマス・ブリンクマンの『1000 keys』はピアノの音を解体再構築して作り上げられた覚醒的なアコースティックテクノだったけど、この『Inner Silence』も似たかたちで作られている。例のピアノの機構が働くノイズを精密に捉えた演奏とアンビエント的なヴェールのような持続音が組み合わさっているのだが、その持続音の部分もピアノの音を加工して作っているとのこと。
音全体の感触はウォームでくぐもったような…多少水温の高い水中に潜っているような、独特なもの。あるいは、両耳を手で塞いだときに聴こえる音に似ていると言えるかもしれない。ここから得られるイメージはいろいろあって、例えばあの両耳を手で塞いだときの音というのは鼓動とか血流の音であって、あれは胎児が胎内で聴いている音にも似ているそうだ。この映画はある意味では生まれ直しの物語、ある瞬間に社会との繋がりがドラスティックに結び直されたことを知覚するという物語であるということ。
あるいは、オルガン、という言葉の語源は、人体の器官であるということ。ピアノをそのように捉えた音楽とも呼べるような。
もうひとつが、キャストインタビューで言っていたことのうちに気になったものがあって、劇中に花火を見るシーンがあるのだけど、そこで主人公たちがコップに飲み物を持っている。花火の振動で飲み物に波紋がたつ。それで、あ、音は分からないとしても振動は、身体で感じる振動は分かるんだ、とそのキャストの人が言っていて、たぶんこのドローンが志向するのもそういう音響であるとうこと。

この作品は映画の音声トラックとして作られているので、BDへの収録の形も本編の音声トラックとして聴くというものになっている。ここが重要なのだけど、劇伴ではなくて音声トラックだ。つまり、サイレント映画形式、しかも映像と基本的には同期しないアンビエントドローンが鳴っているのみ、という。
時折の瞬きのような音の変化に偶然的に映像が噛み合うような瞬間にはっとさせられつつも、基本的な体験としては…あれに似ているかな。ヴィルヌーヴの『メッセージ』。音が映画の中の時間間隔をも捻じ曲げるような。
『インターステラー』で同じ事をやっていたように記憶しているけど、5.1chで制作されているということも面白い。それを存分に味わうために、ステレオヘッドフォン/イヤフォンを用いてサラウンド音響を再現するという音声モードがBDに入っていて、包み込むような音響にどっぷり浸かれる。
映画的な意味でも相当に実験的でありつつ、単に音楽として聴いても素晴らしい完成度。
そしてこれで観ていて本当にいい、美しい映画だなと改めて。
というか、この音の中にあってこそ、アニメーションの美はプリミティヴに立ち上がる。すなわち、そう振る舞うこと-仕草がすべて-そう存在するということ、意味から離れて、動くこと-アニメイテッド-によって生きるということ、つまり、こう捉えることはできないか?この子供たちはドローンで踊っているのだと。そこに現れるのは生きること=踊ることという、アニメという表現そのものの孕むひとつの究極的なテーゼであるはずだ。
だから僕はこの映画のクライマックス、あの美しいノイズの溢れるクライマックスにどうしようもなく涙してしまうのだろうな。すべては音楽で、音楽はいつも鳴っている。生はもう祝福されている。
本編のあの音の感じが好きならこれは買って損しない、聴く価値のある音源。ぜひ。

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