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とらドラ! 温室の鍵を開けるということ

周りでとらドラを嫌いな人がいるんですが、その人の嫌いがどうも「とらドラ論」的なものの気持ち悪さに由来しているようなんですね。まぁそんなので俺もそういうのからは距離を置く感じだったんですけど、今回はなんか語りたいなぁと思って。
語りの欲望を喚起しまくってくる作品ですとらドラは。

「好き」って言ってるその内実はみんな違うのに、ふたつの音に収まるわけなんてないものなのに、それでも僕らはこの言葉を使ってしまう。勝手な気持ちをすり合わせながら、何とかやっていく。
理由も根拠も意味もないこれは何なんだ。言葉を送るってことは、入れ物を送ることでしかない。中身は自分の中にしかなくて、取り出せない。挙句、相手が代わりに詰めるものは得体の知れない、絶対に分からないものだったりする。
今日はそんな気持ち悪い日記を書き出そうとしたんですが。
でもこれから書くのはまったく別のことです。ええ。

みんな優しいですよね。とらドラの人たちは。
竜児はみんなに優しくて、大河もみのりんも北村も他の誰かの想いのために動いている。その中でばかちーこと川嶋さんは特殊な立ち位置にあると思うんですよね。今回、みのりんに対してキレてしまった川嶋さんですが、この苛立ちは非常によく分かるんですね。言うなればそれはラノベを読む僕らの読者としての苛立ちに近くて。
ラブコメ時空でありがちなことなんですが、度を越して鈍感な主人公や自己犠牲にはりきりすぎなヒロイン、というのが行き過ぎたときに読者としては苛立ちを感じたりする。でもその苛立ちには変なところもあるというか、結局僕らが楽しんでいるラブコメ時空は、苛立ちの対象になっているそれらの共犯関係によって維持されているものでもあるわけです。
つまり、あるヒロインが抜け駆けして、主人公のことをなりふり構わず好き!とか、主人公が一人のヒロインを選んでしまったら、物語は終わってしまう。読む側はなぜかそういうことをあまり考えません。そして川嶋さんもこのことを考えません。いや物語の中の登場人物だからですが。
今まで見たところですが、彼女にすると、そういう温室を維持する緩い優しさの連帯が結果として誰かを傷つけたり疎外してしまうこと、これが我慢ならないようです。とらドラは数学、という言葉が一時期盛り上がったりしていました。端数としての彼女はなぜここにいるのか。ラブコメ時空という温室の鍵を開けるために、彼女がここにいる、という気がするんですね。このことについて書いていきます。
長いので続きで。
16話の最後のシーン「罪悪感は、なくなった?」とか、見た当時は正直必要がないんじゃないかと思ってたんですが、ここにきてやっと川嶋さんの言いたかったことが分かってきた感じがある。
言うなればそれは「リア充乙」的なものに極めて近い。まんがタイム系の4コマで、主人公たちが何年も延々と高校2年生をやっていて、ぬるい日常をほわほわと幸せに過ごしていたりする。一見幸せなものでしかないこの風景にある種の残酷さがあることを、川嶋さんは自分が一重に「遅れてきたヒロイン」であるゆえに、敏感に感じ取ってしまっているんじゃないでしょうか。
ラブコメ的な、何人もの女の子が主人公を好き、という状況は、もしその中のある女の子が主人公を本気の本気で好き!ってことになったり、主人公が誰か一人を決定的に選んでしまったときには終わってしまう。だから話の構造的に、何となく好きみたいな空気を維持していくしかない。またその中の一様に優しい登場人物たちもこの温室のような環境を壊すことを望まないので、結果として共犯関係的にこの温室は維持されることになる。
こうした環境は一見、幸せそうでいいじゃない、ってなもんですが、問題もあります。川嶋さんの、クリスマスパーティーの準備のときの「おままごとをやめるか、私も最初から入れて欲しい」というようなセリフや、みのりんの「みんな仲良く」的な態度に反発を覚えたりすることが、分かり易いと思います。つまりひとつは、温室が長く維持されるとそこに途中から入るということが難しくなるということ。ひだまりスケッチでの、新一年生が入ってくるところなんか、一巻から読んでる読者にすればものスッゲー異常事態に見えてしまったりする。もうひとつは、こちらがより重要ですが、温室の中で現状の関係を維持しようとすることには極めて寛容な環境が、逆に関係を動かそうとする人を深く傷つける。このことです。原作だと、竜児はこのことをしつこいくらいに言っています。川嶋さんはそのことをみのりんの「みんな仲良く」的な態度の中に見て、キレる。

こうした「温室への苛立ち」に気付くときに、ひとつの事実に思い至らざるを得ません。つまり、一人を選ぶということは他の誰かを選ばなかったということでもある、ということに。そもそも「好き」ということは、「(他のものに比べてこれが)好き」という意味をもともと孕んでいるようにも思える。温室を維持しようというのは、物語が終わる、とかそれ以前に、この選択が辛すぎるからなんじゃないのか。しかも温室を長く維持すればするほど、選択はさらに辛いものになっていく…。
そうなると、誰かを捨てることで誰かを選んで傷つくのか、誰も選ぶことができないということに傷つくのかという話になってくるわけですが…。ここで、何となくみんな幸せでめでたしめでたし、じゃなくて、誰かを選んでそのことの痛みを背負えよ、という川嶋さんの言動はラブコメ時空的にはもの凄く重要なものに思えます。みのりんを傷つけてしまった、竜児が振られた、と川嶋さんが思い悩むようなシーンがありましたが、こうして彼女自身、傷ついているということも重要です。彼女は安全な場所から「リア充乙」と言っているのではなくて、自身も痛みを引き受けようとしている。引き受けようとするんだけど、うまくできない。やっぱりさらに傷つけ合ったりしてしまう。今回の最後の喧嘩のシーンは印象的でした。とらドラ世界の人たちは、うまくやりたいのに、なにひとつうまくできないのです。こうやってやり方を間違っていってしまう感じは、彼ら彼女らの人間くさい魅力の源泉の一つでもあります。

喧嘩のシーンでちょっと書きたいことがあって。川嶋さんはみのりんをムカつく理由として「正面から相手をしてくれない」ということを言いますね。俺は幸いにも人との間に波風を立てたりすることはあまりないんですけど、だいぶ前に俺に向かってキレた人がいて。その人が俺に同じことを言ってました。ひねくれて小難しくごまかすようなことばっか言ってねえで、素直にものを言えと。
うん、なるほど。俺自身は全然ふざけてたりとかそういうつもりはなくて、むしろ筋道立てて考えたらこうなるよね、ってなことを言ったつもりだったんですが、今になると場の均衡を壊すような言動をするのが嫌だったのかなって思うところもある。だからでしょうか、川嶋さんの言うこともみのりんの言うことも分かります。
脱線でした。

今回の話で極めて印象的だったのは、エンディングですよね。いつもの感じで入らずに、竜児が大河を助け出したところ、大河の朦朧とした意識の中での告白に、『オレンジ』がかぶさっていく。ここでは原作に近づけたアプローチの演出がされています。アニメ版のとらドラではもともと長台詞や独白調のモノローグなんかがかなり少なくて、登場人物たちがあまり「語らない」ことが印象的ですが、原作を見るとそんな内面の描写のようなものが結構多いのです。象徴なのが、原作ではこのエピソードの一巻前、クリスマスパーティーのあと、くまサンタの竜児が去ったあとの大河のシーンでしょう。アニメ版から先に見ているとかなり驚くのですが、原作ではここで大河が竜児を「好き」だったということがはっきり書かれています。これは普通に考えれば重要で、外すべきではないものです。でも、こうして「描かない」ということが、アニメ版とらドラ!において作品の方向性を強く表現している、ということは言うまでもないでしょう。これは活字と映像の違いからくるものとも言えそうですが、まぁとにかくここでの「好き」の外しは意図して行われいるというのは簡単に推測できます。
だからこそ今回の大河の告白は意外だったと同時に、上で検討してきた川嶋さんの言動を考えると、物語的には必然だったようにも思える。言うなれば、既に温室の鍵は外されてしまっているからです。いわばここは自壊する温室なのかもしれない。それを描くために最も有効なアプローチが、アニメ版では用いられているように思います。物語を一から順番に積み上げていくのではなくて、もとあるものをリミックスしていくものとしてとらドラを語り直すならこうするだろう、というベストな形です。
近くリリースされる原作最終巻もアニメの進行に合わせて読み進めるつもりですが、ふたつのとらドラの結末がどういう形になるのであれ、そこに「痛み」が残ることは避けられないんじゃないでしょうか。でもそれが彼ら彼女らの選択なら、それはそういうことなのであって、それ以上でもそれ以下でもない。温室を維持することと温室を開放すること、その間に一体どういう答えを出すのか、そんなことを考えながら引き続きこの作品を楽しみたいと思います。


しかしそうか。大河と竜児の関係を巡って、みのりんとばかちーの世界観がぶつかる話とも読めるんですね今回のとらドラは。それと、この話でいくと宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』でのらきすた批判もちょっと分かるところはある、という気がする。Open the door(笑)じゃないですが。
なんてだらだら書きながら典型的な温室作品の『けいおん!』二巻をこれから読みますよ。


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